DoCK 映像リサーチセンター

レポート④ プロデューサー・クロストーク:変化する制作環境と求められる人材

分野横断会議・シンポジウム
2026.10.19

DoCKキックオフシンポジウム、最後のレポートは、クリエイター・クロストーク「変化する制作環境と求められる人材」をお届けする。登壇したのは、株式会社サラマンダー代表取締役、アニメプロデューサー・脚本家の櫻井大樹氏、株式会社講談社第四事業本部 クリエイターズラボ部長兼グローバル統括室担当部長の鈴木綾一氏。モデレーターは映像研究科の岡本美津子教授、市山尚三教授が務めた。IP産業の現状、グローバル展開の角度、AI活用実例と課題といった3つのテーマに触れ、アニメ・漫画・実写映画の具体例を挙げながら、プロデュースと制作環境のあり方について、その〝現在地〟が共有された。

IPの分野横断的展開――業界の変化とIPにおける「速度/強度」

初めに、岡本教授が投げかけたテーマは「IP[*1] の分野横断的展開」だ。現在、あらゆる制作会社がIP開発・展開に力を注いでいる状況を背景として、アニメ・漫画それぞれの業界ではどのように変化があるのか。岡本教授は櫻井氏、鈴木氏それぞれに問いかけた。

まずアニメーション業界について。櫻井氏は「非常に大きな変革期にある」と指摘する。 知名度の高い老舗スタジオを出版社や映画配給会社が買収・子会社化したり、オンライン化され物理的なスタジオを持たないスタジオが出てきたりと、業界再編が行われているという。重ねて、変化の背景にはコロナ禍により、Netflix等の動画配信サービスにおける映画・アニメの世界的普及、および技術者側のデジタル移行も大きく関わると指摘する。「どういうふうに(スタジオの)存在感を出していくか、違いを出していくか、ワークフローが変わることによって、各スタジオが問われているような時代になっている」と語った。

*1: IP(Intellectual Property):知的財産。人間の知的活動によって創造された財産的価値のある情報を指す。例えば、ひとつのキャラクターをIPとして、そのキャラクターは漫画、アニメ、ゲーム、グッズ等に展開される。

櫻井大樹(株式会社サラマンダー(Salamander Pictures)代表取締役 アニメプロデューサー・脚本家)

動画配信サービスについて市山教授は、実写映画のリメイク作品の観点から言及する。「全世界で配信する可能性があるとなると、それを見た海外の会社が『リメイクしたい』と言ってくる可能性は十分出てくるとは思う。(中略)そうなった時に、きちんとマネジメントできるような体制をプロデューサーが考えなきゃいけないということは、今問われているところかなと思います」と応答した。

漫画業界については、鈴木氏はまずクリエイターと出版社の関係性を整理した。「出版社はよくIPホルダーと勘違いされるんですが、実際には著者に100%著作権があって、私たち出版社はその管理を任されている」「コンテンツの制作、生みの場に立ち会う」ことが編集者の職務であると語る。講談社では、書籍形式に限らず幅広いクリエイターに伴走するため、講談社クリエイターズラボが2021年に創部された。鈴木氏はその部長を務める。

さらに鈴木氏はIP産業に関して以下のように続ける。「コンテンツには速度と強度があると思っていて。特にIP産業は、今のところ速度(=一時的な流行)を求めているような感じがするんです」とした上で、漫画『AKIRA』など息の長い作品を例に挙げ、次のように続けた。「本当の意味での強固な IP というのはすごい長い時間かかる。強度を持たなきゃいけない。速度と強度のどちらを求めているか、目指しているか。あとはクリエイターになりたい人たちがずっと生まれ続けるかどうか、ということを整備するっていうのが大事かなと思います。」

鈴木綾一(株式会社講談社 第四事業本部 クリエイターズラボ部長 兼 グローバル統括室担当部長)

グローバル戦略――どこを起点として創り始めるか、ドメスティック/グローバル

IPの海外展開という議論を引き継ぎ、「グローバル戦略」にテーマが移る。

鈴木氏は漫画編集の立場から、海外進出のあり方については、「海外進出とグローバルっていうのを明確に分けた方がいいかなと、個人的には思ってるんです」と指摘する。漫画をグローバルに展開する際、文化の違いや忌避表現には必ず直面する。創作の幅を狭めないために、初手からグローバル化を前提とはしないという。「自由に書けるのが日本なので、(中略)そこで勝ち抜いた者が世界に羽ばたくということでやっていきましょうと。リングのような気持ちで、日本でコンテンツを創っています」と語った。

どこを起点とし、どこに向かって創るのか。岡本教授は、「日本のアニメもドメスティックに創っていたからこそ、日本のオリジナリティーが出てきたんだと。それを突き詰めて、最終的には海外で売れればいいのでは」という議論が既にある現状を踏まえ、いかに考えるべきか各氏に問いかけた。

櫻井氏がアニメーション国際見本市・MIFA[*2] で発表した『TAVERNA!!!』という作品は、イタリア料理屋での物語であるがゆえに、イタリアのテレビ局から「料理に関しては、イタリア人はこだわりが強いので、監修を絶対に入れたい」と声があがったという。パートナー探しの過程で結果的にグローバルに接続していくことがままあるという。

市山教授も実写映画において、「ドメスティックで創ろうとしていた映画が結果的にグローバルになることはよくあるケースだと思います。(中略)創りたいものを持ち回っているうちに、それが結果的にグローバルな要素が増えていく」とまとめた。

*2: MIFA(ミファ:Marché international du film d'animation):毎年6月にフランスで開催される世界最大級のアニメーション国際見本市。アヌシー国際アニメーション映画祭に併設される。各国企業・団体の展示ブース、企画プレゼンテーション、シンポジウム、リクルート等、様々な機能を持つ。単なる展示会ではなく、アニメーション業界のプロフェッショナルが集う一大マーケットとなっている。

モデレーター:市山尚三(東京藝術大学大学院映像研究科 映画専攻教授)

一方、海外からの逆売り込みの現状についても話題が及んだ。櫻井氏の会社には、ハリウッドのクリエイターから仕事を求めるメッセージが日々多数届くという。「日本のクリエイターたちも、ハリウッド脚本家たちと戦わなければならない時代に来ていると思います」と指摘する。鈴木氏は海外クリエイター向けのサイト・KODANSHA MANGA ACADEMYを例に挙げながら、「世界中でShonen(少年ジャンプのような漫画の総称)の漫画を描く人が増えている」と語った。

AIによる制作環境と求められる人材の変化――コントロールをどう考えるか

トークは、3番目のテーマであるAIへと移る。櫻井氏が手がけた『付喪神』というアニメ作品を例に、AI制作の具体例が共有された。

『付喪神』は米・仏・印・日の多国籍チームで制作され、AI翻訳・AIによる制作進行を行った。キャラクターデザイン(加藤タカ氏による)はAIで複数のタッチを制作。絵コンテはAIで複数の質感・色調に展開して美術ボードを決め、ラフのクリーンアップにもAIを用いたという。しかしその過程ではコントロールの問題が発生する。「(AIは)ランダムに出力するんで、ガチャみたいになるんですよね。それを防ぐために、AIにこの部屋(美術)を一回、3Dに起こさせるんです。それが合っているかを一生懸命直していく、手でね。だから途中で思ったんですけど、『これ普通にやった方が早いんじゃないか』っていう(笑)」と櫻井氏は説明する。

『付喪神』の制作背景を説明するようす

『付喪神』は約8分の映像で、同様の映像を全て人力で創る場合よりも大幅に人員削減されてはいるが、それでも50人ほどの手がかかっているという。「省略化すればするほどガチャの要素が増えていくんですね。コントロールできない部分が増えていくので、そこを人間側がどう判断するか」と実状を語る。重ねて、「ある一定の工程が100分の1ぐらいの時間でできるようになるんだけど、そうすると人はどうなるかというと、100回やるんですね(笑)。(中略)やり直しが効く限りはずっとやり続けるっていう」とクリエイターの性についても言及した。

こういった制作背景を踏まえ、岡本教授はAI のディレクションができる人材の必要性を指摘する。「クリエイティブな内容だったり、フローがちゃんと分かった上で設計ができる人間。人材育成という意味では、そういう人間も必要なのではないかなと考えています」と述べ、〝AI ビルダー〟といった新しい職業の可能性について言及した。岡本教授より現状を問われた櫻井氏は、「いずれは無くなると思いますけど、今は、プロンプトや絵でコントロールする AI アニメーターみたいな人たちの力は必要だと思います」と応答する。実際、『付喪神』の制作においても、AI のディレクションをするエンジニアをチームに入れたことにより非常にうまくいったという。

モデレーター:岡本美津子(東京藝術大学大学院映像研究科 アニメーション専攻教授)

プロデューサー教育の可能性――DoCKプログラムに向けて

話題が多岐にわたったクロストークの最後には、DoCKの「プロデューサー育成講座」開講にあたり、これからのプロデューサー教育、およびDoCK講座への期待が語られた。 櫻井氏は「今までプロデューサーも、クリエイターも『長年の背中を見て覚えるんだ』みたいな感じで。そこにも一定の真理はあるとは思いつつ、でももうちょっと教えられるんじゃなかろうかと」とクリエイターからの視点も含め応えた。

続いて鈴木氏は、「何かの〝聖地〟である条件が、スターがいることと、ファンがたくさんいることと、あとは批評する人がいること。もう一つがプロデューサーだと思うんですね。(中略)いろんなレイヤーの中で、専門職なのか、マルチな才能を持ったプロデューサーっていうものを育成できるようなカリキュラムになればいいかなと期待しています」と多様なプロデューサーのあり方を示唆する。

DoCKのプロデューサー育成講座は9月8日より募集が開始された。実写、アニメ、漫画など分野横断的に触れ、権利・ファイナンスといった内容も扱った概論として展開する。プロデューサーを目指す学生や社会人の方々には、ぜひカリキュラムをご覧いただきたい。 最後に市山教授から、「学ぶ最初の一歩として、こういう総合的な講座をまず皆さんに受けてもらうことがいいと思います」と参加者に向けたメッセージが伝えられ、1時間のクロストークは締め括られた。

文:東 彩織、 撮影:山本大輔(DoCK)

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プロデューサー・クロストーク: 変化する制作環境と求められる人材 日時:2026年7月12日(日)16:30 -17:30 会場:国立映画アーカイブ 小ホール 登壇者:櫻井大樹(株式会社サラマンダー(Salamander Pictures)代表取締役 アニメプロデューサー・脚本家)、鈴木綾一(株式会社講談社 第四事業本部 クリエイターズラボ部長 兼 グローバル統括室担当部長) モデレーター:岡本美津子(東京藝術大学大学院映像研究科 アニメーション専攻教授)、市山尚三(同映像研究科 映画専攻教授)

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